従業員への見舞金は福利厚生費?それとも給与?
1.災害見舞金について
台風などの災害や新型コロナウイルス感染症の影響により、従業員へ災害見舞金を渡した場合、その見舞金が福利厚生費として認められるためには、一定の要件があります。要件を満たさない場合には、その支給は福利厚生費ではなく、給与として取り扱われ、従業員に課税される可能性があります。
イ.被災した全従業員に対して被災した程度に応じて支給すること。
ロ.その金額もその支給を受ける者の社会的地位等に照らし被災に対する見舞金として社会通念上相当であること。
2.災害見舞金の対象者
災害見舞金の対象は、今現在在籍している役員・従業員はもちろん、既に退職した従業員や採用内定者も含まれます。
また、医療機関などにおいては、新型コロナウイルス感染症に感染した従業員はもちろん、感染していない従業員も対象となります。緊急事態宣言の下において、事業の継続を求められる事業者の従業員等で、感染リスクの高い業務に従事している者であって、緊急事態宣言前と比較して、相当程度心身に負担がかかっていると認められる者については、見舞金として認められ、給与課税されません。
3.慶弔規程の作成
見舞金については、災害だけでなく従業員の入院などで見舞金を出す場合もありますが、基本的には慶弔規程を作成して、その規定に従って支給します。慶弔規程を作成する場合、勤続年数や役職に応じて、金額を設定することも可能ですが、役員と従業員であまりに金額の差が大きい場合など、福利厚生費として認められない場合もありますので、注意して下さい。
4.見舞金の金額
慶弔規程に基づき、見舞金を支給した場合でも、その金額が高額である場合には、税務調査で指摘され、給与認定されることがあります。
その金額が高額であるかどうかの目安として、平成14年6月13日の国税不服審判所の判決が参考になります。役員に対して慶弔規程に基づき入院見舞金を支給したことについて、審判所は地域性や業種、規模の類似する企業8社の見舞金の金額について調査をした結果、法人の役員に対して支払われる福利厚生費としての見舞金の額は、入院1回あたり5万円が社会通念上相当である金額の上限であると認定しています。
本来は地域性などを考慮しないといけないため、入院1回上限5万円が全ての企業にとって正解というわけではないのですが、実務上、この入院1回上限5万円をひとつの判断基準となっています。
5.法人税の取扱い
法人が従業員のために医療保険に加入しており、従業員の入院により入院給付金を受け取った場合は、その金額を収益として処理する必要があります。仕訳は以下の通りです。
・入院給付金を受け取った場合
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 | 摘要 |
現預金 | 30万円 | 雑収入 | 30万円 | 入院給付金 |
このときに、仮に入院給付金と同額を見舞金として従業員に渡しても、その金額が高額な場合には、福利厚生費として認められず給与となってしまいます。従業員への見舞金の金額が5万円の場合と30万円の場合のそれぞれの仕訳は以下の通りです。
・従業員への見舞金が5万円の場合
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 | 摘要 |
福利厚生費 | 5万円 | 現預金 | 5万円 | 見舞金 |
・従業員への見舞金が30万円の場合
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 | 摘要 |
福利厚生費 | 5万円 | 現預金 | 5万円 | 見舞金 |
給料手当 | 25万円 | 現預金 | 25万円 | 見舞金 |
見舞金を給料手当とされた場合、従業員は所得税を課税されることとなり、見舞金の効果が薄れてしまいますが、会社の側では給料手当であっても経費となることに変わりありません。
次に同じケースで見舞金を渡す相手が役員の場合はどうでしょうか。
・従業員への見舞金が30万円の場合
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 | 摘要 |
福利厚生費 | 5万円 | 現預金 | 5万円 | 見舞金 |
役員賞与 | 25万円 | 現預金 | 25万円 | 見舞金 |
役員の場合には、差額が給与認定されると、役員報酬は毎月定額のものしか認められないため、その差額部分は役員賞与となります。役員に出す賞与は、事前に届出されたものしか法人税法上の損金とはならないため、会社側では法人税の経費とならず、個人側でも所得税が課税されることになります。
役員への支給の場合は、より一層の注意が必要です。
6.まとめ
福利厚生費は、従業員の日頃の労働をねぎらい、働きやすい環境を維持し、モチベーションを上げるために必要な経費です。ただし、給与と似た性質を持つものの、所得税を課税できない福利厚生費については、税務上無制限に使うことは認められません。
見舞金だけでなく、福利厚生費全般としていえることですが、「従業員に一律同じ基準であること」や「社会通念上相当である金額であること」などを守ることが大切です。そのためにも慶弔規程はきちんと作成しておきましょう。
特に、役員に対する福利厚生費は利益調整ではないかと疑われるケースも多いです。従業員より不当に高いなどの場合は給与課税される可能性が高くなります。
また、見舞金などでは領収証はもらわないケースが多いと思います。帳簿書類に渡した年月日や相手先、見舞金の支給原因などを記載しておくことが大切です。
(2020年10月記載)
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